具体的なスポーツ種目・スキルを例に

サッカー、野球(ソフトボール)、バドミントン、ダンスを例に「なぜ運動能力の幅を広げることが大切なのか」を7つの運動能力と紐づけてご説明いたします。※【連結能力】は全ての運動能力と密接に関係しているため記載は割愛いたします。
こちらをご覧いただければ、挙げているスポーツ種目以外でもその大切さはご理解いただけると思います。

サッカーでは…

★相手との接触にも倒れない【バランス能力】
★ディフェンスで相手選手に振り切られず追い続けられる【変換能力】
★自分と相手やボール・スペースを把握する【定位(空間把握)能力】
★相手を振り切るために、走るスピードやテンポを変えられる【変換能力】・【リズム能力】
★脚・足で巧みにボールを操る【分化能力】

野球(ソフトボール)では・・・

★バットやボール、グローブを巧みに扱う【分化能力】
★打撃時に投手の投げるタイミングをとる、捕球の際ボールのバウンドにリズムを合わせる【リズム能力】
★捕球の時にイレギュラーバウンドへとっさに反応し、捕球体制に移れる【反応能力】・【バランス能力】
★状況を判断して最適な場所や相手に送球したり、状況によってバントから打撃に移ために動きを素早く切り替えらえれる【変換能力】
★打撃・捕球の際ボールがどこに来て、どのように対応すればいいのかを把握する【定位(空間把握)能力】

バドミントンでは・・・

★シャトル・対戦相手・ネットの位置を把握する【定位(空間把握)能力】
★相手の動きに反応して動作に移る【反応能力】【変換能力】
★ラケットを自分の思い通りに操作する【分化能力】
★ラリーのテンポなど、様々な動きに対応しリズムよくステップを踏める【リズム能力】
★際どいシャトルの処理や空中での姿勢バランスをとれる【バランス能力】

ダンス(チアダンス)では・・・

★音楽や周囲のタイミング、リズムに合わせる【リズム能力】
★音・キューイング・周囲の動きに反応して適時・適切な速度で対応できる【反応能力】
★会場全体・フォーメーションで、会場・相手と自分の位置・距離を把握できる【定位(空間把握)能力】
★曲の変調やメリハリのある動きに魅せるための【変換能力】
★フラッグなどを美しく操作するための【分化能力】
★様々な姿勢・体勢で止まる・動き続けられるための【バランス能力】


 それぞれの競技スキルの表現は土台となる運動能力に支えられていることがお分かりいただけたかと思います。
「どのスポーツでも運動能力が必要なら、別にコオーディネーショントレーニングをやらなくても、競技スキルを上げていくうちに自然と身につくのでは?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
 ですが、あくまで上記の「スキル」は「運動能力」があって成り立っているものです。「スキル」は繰り返しの訓練で身に着けることが可能なものもあります。しかし、新しい「スキル」を獲得するまでの時間や練習はどのくらいかかるのか、より高度な「スキル」の獲得ができるか否かは、土台となる運動能力の幅に大きく左右されます。

年齢が低いうちに特定の競技を始めさせたい…?

子ども達が抱えている身体活動における問題に、「二局化」があります。【運動・スポーツが好き/嫌い】や【参加している/していない】の二極ではなく、すでに運動スポーツ活動をしている子どもにおける二局化の問題なのですが、それは現在、育成年代で問題になっている早期専門特化です。つまり「子どもの時から特定のスポーツの運動ばかりをおこなっているグループ」と、「さまざまな運動スポーツをおこなっているグループ」の二局ということです。近年日本では、専門競技の早期化や開始年齢の低年齢化が進んでいます○○のスポーツがうまくなるためにはできるだけ早い年齢から始めること。このような考え方が一般化されていますが、全くの間違いです。基礎体力運動能力が備わっていない状態で特定のスポーツを行なっても、上達具合は限られます。足し算や引き算ができないのに掛け算割り算を勉強しているような状態です。ですので、「スポーツをすると、スポーツが下手になる!」と言う表現も言い過ぎではないでしょう。偏った運動能力を修正させることは、向上させることよりも難しいのです。

運動遊びは運動神経を刺激するエッセンス

子どもたちは年齢が大きくなるにつれて、遊び方は変化していきます。遊びの段階的発達は、スポーツができるようになるための基礎的スキル習得にとって重要な過程です。

例えば鬼ごっこがドッジボールやサッカー遊びの基礎になります。幼児期から小学生までは鬼ごっこなどを通して追い・追われる運動を行い、この遊びの中で対人戦術スキルや方向転換、それらに求められる体力運動能力が養われます。鬼ごっこでは鬼に捕まらないように、逆に捕まえようとして追い込んでいく際の相手との間合いを図る感覚、鬼から逃げる方向を瞬時に判断する能力、ストップ&ゴーの繰り返しによる体力強化など、スポーツ的スキルトレーニングが含まれます。ここで鍛えられたさまざまな能力がドッジボールや他のスポーツ遊びに活かされます。そして、サッカーやバスケットボールなどのスポーツを始めた際に、鍛えられた能力がスポーツスキルの基礎になっていきます。

また、縄跳びは跳躍力などのバネ、平衡やリズム、定位(空間把握)能力、手足の協調性(コオーディネーション)が鍛えられ、それが走ったり、跳んだり、さらに助走して跳びながら投げるなどの基礎体力運動能力となり、鉄棒やドッジボールで培われた上半身の力や投球捕球スキルが野球やバスケットボールなどに活用されます。

このように、遊びがスポーツスキルの基礎につながることやそれが段階的に発達すると考えると、遊びの段階を飛ばして、いきなりスポーツスキルの習得をするような早期専門特化や競技スポーツ開始年齢の低年齢化は、運動学習という点から見ても不合理でしょう。

運動遊びとスポーツスキルの関係

遊びとスポーツスキルの関係を運動学の視点で見ていきます。
スポーツ運動学には運動類縁性という考え方があります。運動類縁性とはフォームなどの運動形態の類似性を運動構造の視点から捉える考え方です。簡単にいうと、似たような動きは親戚関係にあるということで、運動ファミリーなどとも言います。

例えば、野球のピッチャーのオーバースローとテニスやバドミントンのスマッシュは似たような動きです。動きが似たような感じであれば、運動感覚や運動表象も似ているため、動きの習得が簡単だったり、短時間で習得しやすいということです。このように運動類縁性があると運動学習が進みやすくなります。かつての子どもたちは、メンコや紙鉄砲で培った運動感覚や表象が活かされ、野球の投げ方の習得につながったり、上達が早くなったりしていたわけです。言い換えると、遊びの経験が少ないほど、運動学習が進みづらくなるということです。

今の子どもたちはいきなり野球、サッカー、バスケットボールなどを始めます。十分に投運動体験がないまま、難しい野球の投げ方を習うことになります。そこには投運動の運動感覚や表象はありません。

つまり、遊びの経験が少なく、全くのゼロから始めることになりますから、体験したことがない、イメージが全くない、さらに体力運動能力も低い状態ですから、なかなか習得できない、上手にならないわけです。


上記の理由から、土台となる幅広い運動能力が必要であり、その運動能力を獲得するためには、遊びの要素のある多種多様な運動を経験することが有効なのです。

一般社団法人福島スポーツアカデミー